不確かな時代の医薬品マーケティング

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Jefferies University *
Equity Research Team
jefferiesuniversityreport@jefferies.com

Stephen Barker †
Equity Analyst
+813 6830 3612
sbarker@jefferies.com

Naoya Miura †
Equity Associate
+813 6830 3613
nmiura@jefferies.com

* Jefferies Group LLC † Jefferies (Japan) Limited

2020年3月25日

キーポイント


現在世界中に感染拡大中のパンデミックにより、製薬会社は、プロモーション戦略の変更を迫られています。「社会的距離のルール」により、製薬会社はMR(医薬情報担当者)を現場から引き上げることを余儀なくされました。そのため日本では、従来の対面によるマーケティング戦略離れが加速する様相を呈しています。エキスパート・スピーカーであるデジタルマーケティング会社の設立者兼社長が、製薬業界におけるデジタル・ソリューションの進化、そしてCOVID-19の影響についてお伝えします。

モデルの様相を一変させているCOVID-19日本では、「社会的距離ルール」が製薬会社のMRと医師の直接面談のほとんどに終止符を打ちました。このことは今後数ヶ月間に発売される新製品に、長期的な悪影響をもたらすかもしれません。ですが医薬品の売上全体へは、さほど影響しない可能性があります。

プレッシャーを受けるMR従来の医薬品のマーケティングモデルは、医師とMRの直接ミーティングに大きく依存しています。このモデルは、COVID-19以前でさえ、日本ではプレッシャーを受けていました。ますます多くの病院やクリニックが、MRの訪問可能な時間に制限を設けるようになっています。また、厳しい規制により接待として認められる範囲が狭くなったため、MRが医師との間に親密な関係を築くことも難しくなりました。営業チームの有効性の低下が認識され、製薬企業収益へのプレッシャーも加わり、多くの製薬会社が、日本での営業担当者数の削減を推し進めるようになりました。

溝を埋めるデジタル・ソリューション:日本は、製薬業界のためのデジタル・マーケティング・ソリューションに関してリーダー的立場にありました。M3に加え、他2つの上場企業であるCareNetとMedpeerが、処方医にメッセージを伝えられるよう製薬会社の手助けをしています。規制の変更、そしてごく最近ではCOVID-19によって生じた混乱が、デジタル・ソリューションに新たな躍進機会を提供しました。

狙いは狭く、深く:医薬品プロモーション予算の焦点は、マスマーケット向けのプライマリーケア製品から抗がん剤などの専門薬へと移行してきています。このことは、従来型のデジタル・プロモーション・プラットフォームに難題をつきつけています。従来型は認知を高めることには長けているものの、処方意向への影響は限定的だからです。企業に必要なのは、より小さく、より厳密に定義された医師のグループに、詳細なメッセージを届けることです。それを可能にするプラットフォームが将来的に成功する可能性が高いでしょう。

ジェフリー大学:エキスパートからのインサイト


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マーティ・ロバーツ


マーティ・ロバーツ博士(PhD)は、業界を変えるために一旦ゼロベースに立ち戻り、一からシステムを構築することにやりがいを感じています。日本の医療業界で活躍するアメリカ人起業家であり、訓練を受けた臨床心理学者でもあります。そして、市場調査、CRMソフトウェア、出版やコンサルティングサービスを含め、製薬および医療機器業界のクライアントにサービスを提供する日本企業数社のトップも務めてきました。マーティがエンタッチ株式会社を設立したのは2015年です。起業するにあたり掲げたミッションは、「患者ケアを向上するため、医療専門家へ質の高いオンライン医療教育を提供する」ことでした。エンタッチ株式会社は、この分野において日本のリーダー的存在となるまでに成長しました。

Transcript


ステファン・バーカー:こんにちは。ジェフェリーズジャパンの製薬アナリスト、ステファン・バーカーです。今日お話いただくエキスパートはマーティ・ロバーツさん。日本の医療業界で活躍するアメリカ人起業家で、エンタッチの社長兼設立者です。エンタッチは、MR(医薬情報担当者)と医師の対面ミーティングという従来のやり方に代わる手段を、製薬企業に提供するマーケティング会社です。

COVID-19が襲来している今、実に時宜を得たサービスですね。マーティさん、ご経歴についてもう少し詳しく聞かせてもらえますでしょうか。エンタッチについても教えてください。

マーティ・ロバーツ:ええ、もちろんです。私は日本に12年ほど住んでいます。臨床心理学者として、アメリカで訓練を受けました。Forest Laboratoriesで働いた後、製薬企業や医療機器企業のための製薬市場調査、営業支援システム(SFA)などを提供する世界的なフランス企業へ転職しました。約12年前にその会社から日本へ派遣され、運営を任されました。

私の会社、エンタッチを始めるためにそこを退社したのは2015年です。エンタッチで取り組んでいるのは、質の高い、複雑な情報を製薬会社が医師へ提供するための、より良い手段を提供することです。

製薬業界は、医師やその他医療関係者へ情報を伝えるにあたって、対面でのやり取りに非常に大きく依存しています。これは、日本では特に言えることです。

オンライン広告モデルが出たのは、しばらく前のことですが、医師とMRの間にオンラインで1対1のコミュニケーションを行う方法は、存在していませんでした。当社のモデルでは、SkypeやFacetimeに似たオンラインビデオ会議技術を活用し、医師が都合の良い時間にミーティングを持つことが容易になります。

当社のエキスパートチームは全ての治療領域をカバーしており、ホワイトレーベルで様々なお客様に代わってそのサービスを提供します。エキスパート(MR)は医師に都合の良い時間にオンラインでやりとりをし、新しい医薬品について説明します。

ステファン・バーカー:ありがとうございました。日本の医療マーケティングの特性について、それが世界の他の国々と比較してどういった状況なのか、もう少し背景が分かるとよいかもしれません。日本では、MR数が減り続けています。ほんの数年前は、日本には6万5千人のMRがいたはずです。かなりの人数ですね。アメリカには、8万人しかいません。

マーティ・ロバーツ:ええ、その通りです。アメリカには、医師100人当たり8人のMRがいます。フランスではこれが約4人、イギリスでは2人、ですが、日本では100人の医師に対して23人のMR、さらに6人のMS(卸企業の担当者)がいることになります。従って日本では100人の医師に対して、イギリスなら2人のところ、29人の人員が付いていることになります。

日本は対面式のビジネスがほとんどです。しかし状況は変化しています。MRの人数は、2014年以来減少を続け、ピーク時に約7万人だったのが、現在は約6万人まで減りました。

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MR人数の減少には、3つの理由があります。まず1つに、政府の方針により、ジェネリック医薬品(後発医薬品)のマーケットシェアが拡大してきたこと。これは先発薬企業の収益性に損害を与えています。2つ目は価格です。古くからある、販売歴の長い薬(長期収載品)は大幅な値下げの対象となっています。3つ目の理由は規制環境です。医師への接待ができなくなり、MRが付加価値を添えることが難しくなりました。日本の規制は現在、おそらくヨーロッパや米国と同じくらい厳しくなっています。そして毎年、厳しくなり続けています。これによって突如、膨大な営業人員は「有効ではない」と思われるようになりました。

ステファン・バーカー:なるほど、しかし間違っていたらご指摘ください。MRとの直接ミーティングは、医師にメッセージを伝えるのに、いまだに最も効果的な方法ではありませんか?それはまだ正しいでしょうか、マーティさん?

マーティ・ロバーツ:それは確かではありません。もちろん(製造企業や製品の)ブランド力や複雑さ、新しい分子かどうかによっても左右されます。大規模な国際会議でのプレゼンテーションは非常に効果的です。ピアツーピアも、かなり効果的なようです。従来のやり方に関しては、直接面談することも未だに効果的と見られています。ですが業界関係者の多くが、そのことに疑いを持っているのが現状です。

COVID-19によって引き起こされた直接ミーティングの減少が、売上に影響するかどうかは興味深いですね。ほとんどの製薬企業が担当者を現場から引き上げています。興味深い試みです。

ステファン・バーカー:直接ミーティングの減少は、新製品発売のプロモーションを特に難しくするでしょうか?

マーティ・ロバーツ:それは正しいと思います。そのような状況に陥っている3社と、今週連絡を取ったばかりです。日本では、医薬品の承認の多くが3月に下ります。企業が発売開始しようとするのが4月、5月、6月です。多くの企業で混乱が起こっています。現場から担当者が引き上げられている中で発売される医薬品が、通常期待されるレベルの結果を出すことはないでしょう。

より賢い企業は、デジタル戦略へ方向転換しようとしています。しかしこれまでに取り組んでいなかったなら、すぐに対応することは困難です。

ステファン・バーカー:日本は多数のMRを抱えています。ですが、デジタルにおいてもリーダー的存在です。例えばM3は大変成功しています。以前のお仕事では、M3のサービス、特に有名なMR君の効果を測るために製薬企業があなたのかつての会社のサービスを使っていましたね。M3サービスについて何かお話しいただけるでしょうか。

マーティ・ロバーツ:ええ。M3は、Sonyの支援を受けて20年近く前にスタートしました。彼らが作ったのは、簡単に言えば医師のためのYahooのようなものです。メインページにはその日のニュースが表示され、検索もできます。広告も載っています。これがM3のポータルです。

そしてトップに、MR君と呼ばれるセクションがあります。ここで、例えば製品を宣伝したい製薬会社がスポンサーになっている動画や記事を表示することができます。

ですがご質問は、MR君の「効果」でしたね。長年様々な製薬企業のためにリサーチをした経験から答えを1つ言うのなら、認知度の向上には効果があると思います。ですが、それによって処方意向が変化するとは考えていません。

私の作った会社、エンタッチの出番はそこにあります。私たちがエキスパートとのオンラインでのディスカッション促進を狙うのは、実際に処方意向を変えるためです。

医師は、エキスパートと話すことでしか得られない質の高い情報を求めています。しかし、自分たちの都合の良い時間にそれが欲しいのです。私たちはCSO型のモデルを取り、初の完全デジタル、完全オンラインのCSO組織を作り出しました。

当社のエキスパート、MRは、在宅勤務で医師とつながります。医師はエキスパートと話したい日程をカレンダーから選び、当社のエキスパートが彼らとSkypeのようなWeb会議の仕組みでつながって話します。会話時間は平均で20―25分です。これはたった2分ほどで終わりがちな、現場MRが医師と話せる時間よりもかなり長い会話です。医師の(処方)行動に段階的変化を生み出すことのできる、実に長いディスカッションの場なのです。これは本当に効果的です。

ステファン・バーカー:COVID-19の襲来、そして実際の訪問が禁止されたことにより、多くの製薬企業があなたの会社のようなソリューションを探して慌てているに違いないと想像します。電話が鳴り止まないのでは?

マーティ・ロバーツ:はい。電話はずっと鳴り続けています。誰にとっても困難な時期です。しかしこの事は、営業戦略全体について、製薬企業が考え直す機会になるだろうと思います。COVID-19だけが原因ではないことに、彼らは気づいています。そのため製薬企業と当社の間には、そんな会話がすでに始まっています。COVID-19前でさえ、製薬企業がアクセスできなくなった医師が大勢いたのですから。

5年前のことです。日本では60%の施設がすでに、MRに対する何らかの訪問制限を設けていたと記憶しています。MRが訪問できるのは木曜だけだったり、予約した場合のみだったり、病院の一区画にしか入れなかったりという具合です。

ですからCOVID-19を受けてさらに、MR訪問への制限が厳しくなるのではという気がしています。

ステファン・バーカー:そうですね。医師にメッセージを伝えるというのは、企業にとっての課題です。ではそろそろ、質問を受け付けましょう。

Q1: 御社では独自にMRを雇用しているのですか。それとも、製薬会社のMRが御社のネットワークやシステムを利用しているか、その両方の組み合わせでしょうか?

マーティ・ロバーツ:両方の組み合わせです。私たちは、独自のMRを活用して主なサービスを提供しています。ですが各社がそれぞれの営業人員を使って当社のプラットフォームを利用することも出来ます。

Q2: M3で実施されているような、医師へのポイント付与が検討されることはあるでしょうか?

マーティ・ロバーツ:私たちにとっては、ポイントシステムは理にかなうものではありません。M3は、ほぼあらゆる分野の医師をプラットフォームに抱えていることが売り文句です。エンタッチは、より専門性の高いプラットフォームです。私たちのクライアントが医師へ提供したいのは、エキスパートとの長時間かつ詳細なディスカッションを持てる機会です。

そのやり方で、ポイントを提供することに意味があるとは思えません。むしろ目的にそぐわないでしょう。私たちは、医師側にしっかりディスカッションが出来る余裕がある場合にのみ、予約に応じてほしいのです。それは彼らが、行動を変える機会のサインだと考えています。新規に処方を開始したり、以前より処方を増やしたり、新薬を処方する、といったサインです。これは新しい戦略です。M3が「到達範囲」を提供するのに対し、私たちが提供するのは「深さ」です。

ステファン・バーカー:マーティさん、製薬業界のデジタルドルを得るためにM3と競っているのは、CareNetとMedpeerの2社の上場企業です。彼らはどういったサービスを提供していますか?

マーティ・ロバーツ:CareNetはM3に似ています。Medpeerのビジョンは、(医師同士の)協力によって医療ケアを改善するというものでした。個人的に、これはM3モデルより興味深く、より魅力的に感じています。

ステファン・バーカー:慢性疾患市場のプライマリーケア製品からスペシャリティ領域薬への移行が進行しています。製薬企業は、MR君やM3のような第三者に頼るのではなく、独自のデジタルプラットフォームを開発しようとさらなる努力を注いでいるのでしょうか?

マーティ・ロバーツ:はい。ターゲットとする市場が小さくなるほど、e広告の効果は薄くなると思います。そのため多くの企業が、独自のオンラインサービスを開発しています。日本でのこの優れた例が、バイオジェンです。

ステファン・バーカー:マーティさん、あなたのクライアントにはどのような結果がもたらされていますか?

マーティ・ロバーツ:実に目覚ましいですよ。対面での面会に取られる時間は、お話しした通り約2分ほどです。これで処方意向を高まるのは、約30%に留まります。私たちは、医師が指定した時間にコンタクトを取ります。そのため、より長い会話が実現します。コールの後、60%から80%の医師が、処方意向が高まったと答えています。

ステファン・バーカー:マーティさん、最後に私たちへ伝えたい言葉はありますか?

マーティ・ロバーツ:日本はユニークな市場です。医療ケアシステムをより良いものにする多くの機会があります。M3やCareNet、Medpeer、それに製薬企業と一緒に、エンタッチもその一端を担っていきたいと考えています。

ステファン・バーカー:ありがとうございます、マーティさん。皆さん、今日はご参加ありがとうございます。近いうちにまたお会いしましょう。


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