Out of Box代表 益尾憲さんに聞く 製薬業界とデジタルの今後

Out of Box代表 益尾憲さんに聞く 製薬業界とデジタルの今後

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今、製薬業界のセールス・マーケティング担当者は、様々な課題に直面しています。例えば、ジェネリック市場の拡大に伴い、製薬会社はMRの人員削減を進めています。多くの病院では訪問規制が実施され、MRが医師に会える時間はますます減少傾向にあります。また、希少疾患薬をはじめとする専門的な薬剤の増加により、MRがより複雑な情報を医師に提供する必要性も高まっています。2-3分の病院の廊下での立ち話や、パンフレットを渡すだけ、またはウェブサイト経由のビデオや記事だけでは、複雑な薬剤情報を提供するのは難しく、本来届けるべき情報を医師に提供できていない現状があります。

医師は、常に製品を熟知したエキスパートからの情報提供を求めています。ただ、忙しいために、自分都合の良い時間に、デジタル、インターネット経由で情報を手に入れたいと願っています。

今回のインタビューでは、益尾憲さんに製薬業界とデジタル活用の今後についてお話を聞きました。益尾さんがグラクソ・スミスクライン社で率いたチームは、一方通行のバナー広告等のデジタルメディアを使うだけでなく、医師とMRをオンラインで繋げるリモートディテーリングを活用し、セールス・マーケティングの手法に変革をもたらしました。

製薬業界のトップとしてチームを率いてこられたご経験を通じた知見、製薬業界でのデジタル手法の可能性についてお話をお聞きしました。また、大きな組織が新しい考え方を取り入れることの難しさもお話しされています。

お話は、既存のセールス・マーケティング手法と融合する形でリモートディテーリングを提供するエンタッチにとって貴重な内容であり、製薬業界の今後のデジタルのあり方にご興味のある皆様にも参考になる内容です。

エンタッチ 鈴木たまき

Transcript

 

本日は、益尾憲さんをゲストにお迎えしています。

益尾さんは、30年以上製薬業界でお仕事をされてきた、製薬業界のエキスパートでいらっしゃいます。

グラクソ・スミスクライン株式会社では, 専務取締役、コマーシャルオペレーションのヘッドを務められ、日本のコマーシャル部門のトップとして、MRを含めた約2600名の部隊を統括されたご経験がおありです。またその後、アストラゼネカ株式会社に移られ、専務取締役、オンコロジービジネス日本代表 兼 オンコロジー麻酔クリティカルケア事業本部長を務めていらっしゃいました。

益尾さんは、現在、エンタッチのスペシャルアドバイザーとして、クライアントのリモートディテーリング戦略の策定、導入に関わるご支援を頂いております。

本日のトピックである、製薬業界とデジタルプロモーション戦略に深い知見をお持ちのエキスパートです。特に、グラクソ・スミスクラインでは、リモートディテーリングを含む、製薬業界では先駆的な医師へのデジタルエンゲージメントの戦略を導入し、同社のセールス・マーケティングの手法に変革をもたらしたリーダーです。 リモートデティーリング、つまり医師とMRを、オンラインビデオと電話により繋ぐ方法は、製薬会社へのリモートディテーリングの提供が主なサービスである私共エンタッチにとって、大変身近で重要なトピックです

本日はリモートデティーリングのエキスパートである益尾さんにお越しいただいておりますので、早速お話をお伺いします。

鈴木:まずは益尾さんのご経歴、また、どのような経緯でデジタル経由のアプローチを医師に対するプロモーション方法として活用しようと考えられたのか、背景をお話いただけますでしょうか。

益尾:私のキャリアのスタートは、日系企業である第一製薬という会社で研究開発、特に臨床開発が最初です。その後、国際企画室といいますが、国際的な事業展開を考えるためのプラン二ングの部署にいました。その間に、国内外での研究開発の最前線や、海外でのマネージメント、あるいは企画遂行などを担当していました。その後、GSKに勤めまして、GSKで国内のビジネスのリーダーをやっていました。最後の私の産業界でのキャリアは、アストラゼネカのオンコロジーの責任者をやっていました。

そもそもデジタルのツールを使って、プロモーションを展開をするという考え方は、簡単に言えば、危機感のようなものからきています。今から10年くらい前になりますが、わたしがコマーシャルのリーダーをやっていた頃、先生方が取る情報というのは、デジタルの発展、ITの発展、コンピュターの発展とともに幾何級数的に増えているというのを目の当たりにしましたし、相対的にMRから出ている情報というのが減少しているというの見てきました。昔は、MRが文献をコピーして届けるということに価値を見出していました。しかしながら、即座に文献は先生と間でやりとりができるようになりましたし、先生自らいろんな情報を自分のネットワークを通じて電子的に入手する、そういうプラクティスに変わってきました。言い換えると、MRひとりがひとりが届ける情報というのは、相対的にものすごく少なくなってきている、ということです。MR自身が伝える情報量というのは変わってはいないとは思いますけれども、相対的に変わってきてしまったとうのが、危機感の大きな部分でありました。加えて、情報量を相対的に増やすために、単にMRを増やすということだけで対応できないのは自明です。また、各病院で訪問規制が行われるようになってきて、MRが自由に病院の中を出入りするということは、ほとんど不可能になってきていました。そのようなことから、代替手段を考えざるおえない状況になってきていました。

もう一つの理由になりますけれども、働き方改革という言葉になるんでしょうか、経験を積んだMRが、例えば、女性であれば、結婚、妊娠、出産、教育といったような理由でやむを得ず仕事から離れなければいけない場面、問題といいますか、課題になってきましたし、あるいは、60歳を過ぎてまだまだお元気で活躍することができるMRの方が、やはりどういうふうにして、自由も謳歌しながら働けるかということを考えられるようになってきた、社会的な問題も私が解決しなければいけないことも一つのきっかけでした。

鈴木:その代替手段として、益尾さんがこころみようと決められたリモートディーリングという手法は、大変興味深いアプローチだと思います。なぜリモートデティーリングを活用しようと考えられたのか、また 実際に導入したことで、学ばれた点など、お聞かせいただけますでしょうか。

益尾:MRが伝える情報やインプットによって、ターゲットドクターの考え方あるいはプラクティスを変えるということは、大変効果的な方法だというふうに私は思っています。一方で大変効果的な手法を残しながら、どのようにデジタルと組合わせるべきかということを考えてきました。試行錯誤を繰り返す中で、ターゲットになっていないドクターや遠隔地のドクターをリモートディテーリングによって変える、考え方を変えるということはなかなか難しいということがわかってきました。言い方を変えると、MRの活動範囲の外側、すなわち非ターゲットのところで成果を上げようとするとどうしても無理があるということがわかってきました。他のデジタルツールも同様ですけれども、全てのプロモーションチャンネルを相補的に使う、あるいは願わくは、相乗的な効果を生みだすために、あらゆる手段をうまく活用するということのほうが、本質的であると考えたわけです。さらにわかったきたことは製品のライフサイクルのステージであったり、あるいは、適応症の特性であったり、ターゲットドクターの特性であったり、通り一遍でワンパターンのやり方では到底対応できないことがわかってきました。リモートディテーリングも結局のところは、相手に合わせて、一人一人のターゲットドクターに対するでディテール活動ですから、相手をよく知り相手に合わせてディテールをする、これが基本であるということが明確にわかったわけです。

鈴木: エンタッチは、専用プラットホームと、専門のトレーニングを受けたMRを活用し、リモートデティーリングのサービスを製薬会社や医療機器会社に提供しています。お客様から、リモートデティーリングの一番効果的な活用方法は何かという質問をよく頂戴します。例えば、Long-tails戦略なのか、新製品の導入をサポートするため、または、処方につなげるために、複雑で詳細な情報を提供する必要がある時なのか、など色々想定できるかと思います。益尾さんのご経験では、リモートデティーリングが一番効果を上げるのはどんなケースだと思われますか。

益尾:リモートディテーリングを行うMR、リモートMRというこのコンセプトは通常のMRでいえば、アポイントディテーリングとか説明会といったものに非常によく似ています。相手の先生がきちっと空けてくれて、聞く準備をしてまっていてくれるというところが、大変違いがあるところだと思います。通常のMRは決められた頻度でターゲットドクターを訪問することになっています。それが、一週間に一度であったり、二度であったりということですが、定期的に訪問するMRは自分たちの伝えなければいけないメッセージを、その瞬間にすべて伝えるという事をある意味ためらいます。すなわち次回に回すとか、何回かに分けて話をしていこうというようなことをします。一方ドクター側も、また今度このMRは来るから、次の時にしっかり聞けばといいというような、ドクター側にとっても定期的に来るMRに対する聞く耳をもつ、この行為がわりと疎かになると思います。リモートディテーリングをアポイントを取って行うと、先生方はその時間AからZまでしっかり聞く耳を持って聞く準備をして待っていてくれます。すなわちドクターのエンゲージメントのレベル、メッセージの浸透のレベルというは大変高くなります。リモートMRがセッションを持った後に、先生方にその評価を聞くと、よく聞くフィードバックとして、大変よくわかった、全体のストリーが明確になった、という言葉がよくあります。やはり、MRによる断片的な情報ではなく、全体を通じてストリー立てて説明するリモートMRの効用というのは、こういう所にあるのではないかと思います。そのような観点から、ドクターがどうしても考え方を変えてくれないケース、あるいは、プラクティスが変わらない標的ターゲットドクターがいる時、こういうところはリモートMRの活用の範囲として最適なのではないかと考えられます。

例えば、重要でターゲットドクターになっているけれどもまだ、処方が行われていない、考え方が変わっていないというドクターは必ずどの薬剤でもいます。そういうところにリモートMRをぶつけてみるというのは大変価値があるのではないかと思います。したがって、現場のMRとのコラボレーションも大変重要になります。常にMRとリモートMRのこのコラボレーションをしてターゲットドクターの現在の考え方というものを確認しながら、ディテールを行う、カスタマイズしたメッセージを伝えていくのは重要なのではないかと。

ロングテールについての考え方ですが、人を使ったリモートMRの活動ですから、それなりにコストは掛かってしまいます。すなわち、ロングテールでターゲットにもなっていないドクターに対するリモートMRというのは、それほど効果を持たないのではないでしょうか。繰り返しますと、マーケティングの方が分析すると、ターゲットドクターにはなっているけれども、ポテンシャルは大変高いドクターではあるけれども、処方はまだ動いていないというようなドクターの一群が必ずいるはずです。そういう一群に対してリモートMRをあてるというのは大変価値がありますし、会社としてもなんらかの手を打たなければいけないドクターの一群であるはずです。もう一方で、重要なターゲットとなりうるドクター群は、すでに高処方をしているドクターなのではないかと思います。当然会社とドクターとの関係は大変良いですし、基本的に処方のメンテナンスということですので、そういうドクターに対して、リモートMRをぶつけておくのは意味があると思います。実際のMRがやらなければいけないのは、新しい顧客に対してしっかりとコンタクトをすることによって処方を動かすことに専念すべきだと思います。

鈴木:企画やマーケテイング部門の方が、セールスマーケティングの戦略の一つとしてリモートディテーリング導入に前向きであったとしても、医師は利用しないだろう等を理由として、社内の賛同を得られないことがあります。グラクソ・スミスクラインで、新しい手法であるリモートディテーリングの導入に関わられた益尾さんも、そのようなご経験があるかと思います。どのよう方法で、益尾さんは社内の理解、賛同を得られたのでしょうか。

益尾:そもそも人間は、自分の存在を脅かすものに対しては、それを排斥しようと試みます。ましてMR、営業はテリトリーを持って動いていて、そこに入ってくる者は邪魔者として捉える傾向が強いと思います。本社からの人間が訪問したり、マネージャーが同行したりすることすらMRはそれを排除しようという気持ちが根底にあります。したがって、リモートディテーリングをやろうとしても営業の一線に立っている人達はそういうものは効果が無いとか、自分がターゲットにしていないロングテールのドクターに対してそういうことはやってほしい、といったような反応が出てくるのは至極当然の事だと思います。このような状況を打破する最善の、もしかしたら唯一かもしれませんが、方法論としては、やはりリーダーのコミットメントが必要ということです。MRの人たちあるいは、営業の人たちに今の現状をしっかりと理解してもらうことが重要で、そのためには、ありとあらゆる手を打って今の状況を打破することが必要であるという認識を持ってもらうことです。言い方、話の持って行き方は色々あるでしょうけれども、リーダーが率先してそのような話を仕掛けていくことがまずは大切なのではないでしょうか。いずれにしても、そのテリトリーにおける訪問の成果を亭受する者、ベネフィット受けられる者というのは、MR本人です。従って、MR自身には、ありとあらゆるを方法を使って、自分の成果を上げることができるように、能動的に動かすことが求められると思います。

元来、優れたMRというのは、そのようにありとあらゆるものを活用して成果を上げているはずです。それは、特約店のMSの人であったり、上司であったり、あるいはデジタルのコミニケーションであったり、そういうものをすべてを活用しながら、自分のテリトリーにおける成績を上げようと柔軟に、オープンに対応している人間が、素晴らしい成果を上げているように私は考えています。ですから、受け入れるメンタリティーを持ったMRを一人二人と増やしていって、そのようなベストプラクティスを積み上るようなアプローチも有効な手段だと思います。

鈴木:やはり成功事例が一番重要ということですね。最後になりますが、リスナー、読者の方に、リモートデティーリングを成功させるために鍵となるポイントを教えてください。

益尾:やはり鍵となるのは、会社全体として現在の状況を打破し、成果をより大きくだそうと考える組織全体の意思統一だと思います。組織全体がそういう気持ちになるということで、MR一人一人のレベルであって、なんとか成果を出したいという気持ちにさせる。ありとあらゆるものを活用して自分のテリトリーの中で成果を挙げるようにする。言い方を変えると、MRがリモートMRという自分の分身をうまく活用して、自分のテリトリーにおける成果を最大限引き出すという、こういう前向きな捉え方をするということだと思います。やはり、最後にベネフィットは得るのはMR個人であり、会社そのものだからです。

鈴木:益尾さん、本日はありがとうございました。 

Exit: 

本日は製薬業界のデジタルプロモーション戦略のエキスパートであり、日本の製薬業界ではデジタルマーケティングの草分け的な存在であるグラクソ・スミスクラインで、リモートディテーリングの導入を主導された、益尾憲さんにお話をお伺いしました。

医師は医薬品の情報を求めており、製薬会社は情報を従来通りに、または従来以上に医師に届けたい、関係性を強化したと考えています。しかし、これまでの現場MR活動に頼るアプローチから、デジタルをより活用する方向に舵取りしていかねばならない現状があり、その打開策の一つがリモートディテーリングである、という点が特に興味深い点でした。他のデジタルツールと同様、リモートディテーリングはMR活動の外側での活用は成果を生み出さない。リモートディテーリングはマルチチャンネル戦略の一部であり、通常のMR活動と相補的な関係である。つまり、侵略者ではなく、よきパートナーであることを、製薬会社の現場のMR、セールス部門の方々によく理解いただく必要があると強く思いました。

最後に、益尾さんの「成果を上げるために、可能性のあることはすべて試みるという、組織全体の意思統一である」というお言葉が大変印象に残りました。

リモートディテーリングサービスのプロバイダーとして、私共エンタッチは今後も、製薬会社、医療機器会社様にベストなサービスを提供し、現場のMRの方々にリモートディテーリングの利点をご体験いただけるよう、引き続き取り組んで参ります。